鉄砲の誤解(2)鉄砲量産と火薬
私:次はもう一つの鉄砲の誤解(鉄砲量産と火薬)を語ろう。鉄砲は日本に伝来するや、翌年には国産化に成功して、性能はほどなく南蛮を超える。そして戦国末期には海外に輸出するまでになるんだ。しかし南蛮勢の真の狙いはできるだけ多くの鉄砲を日本につくらせることだった。そうでなければ、螺旋状の「ねじ」の作り方など、秘伝を日本に教えるものか。鉄砲も火薬がなければただの鉄パイプだ。内戦を激化させ、それに乗じて宣教師は火薬を高く売りつけようとしていたのだ。
N:鉄砲の数だけ火薬が売れますものね。
私:しかも火薬(硝石)も信長の独占ではない。後に加賀藩領になる富山県の五箇山(世界遺産)の囲炉裏の床下でも煙硝がつくられていた。
N:その火薬を使うのは誰ですか? 信長ではないですよね?
私:石山本願寺だな。ところで信長の火薬の入手ルートだが、ルートは二つある。種子島ルートと紀伊ルート。しかし火薬入手の安定ルートはやはり南蛮貿易に敵うものはない。
N:信長が堺を直轄地としたのは鉄砲と火薬を独占するためでしたよね。
私:堺を直轄地にした理由は二つある。一つは信長は堺の総合力が欲しかった。貿易(瀬戸内航路による南蛮貿易・日明貿易・琉球貿易)、金融(金貸し)、工業(武器)、物流拠点、情報収集などなど。もう一つは武田や上杉など東国大名への「経済封鎖」が目的だ。鉄砲や火薬の入手を困難にさせ、仮に入手できたとしても値段は高い……。
N:完璧ですね。
私:しかし、武田・上杉はそれでも信長を苦しめるし、西国大名の「経済封鎖」はできない。石山本願寺は強いし、毛利も強い。しかも両者は同盟を結ぶ。
●古九谷を追う 加賀は信長・利休の理想郷であったのか(幻冬舎)抜粋