古九谷を追う&古九谷を残す

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利常の文化政策(3)信長の文化政策 vs  利常の文化政策

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私:利常の文化政策も終盤に入ってきたな。信長の文化政策と比較して、利常の文化政策を語ってみたい。さて信長は「茶器」を領土(一国一城)にした。信長のパラダイムシフトには目を瞠る。これを「御茶湯御政道(政治に文化を持ち込む)」という。政治の報酬(領土)を文化の報酬(茶器)にパラダイムシフトしたわけだ。

N:利常にはパラダイムシフトはありますか?

私:利常は「武器武具」を「美術工芸品」にパラダイムシフトさせた。「御細工所」を創設して、武器武具の制作と修理の場から美術工芸品の制作の場へと転換させた。利休の茶事を完遂させるために美術工芸品は必須であり、「古九谷」は、信長の茶器のように、利常においては一国一城なのだ。

N:利家と信長は被りますが、茶器と「古九谷」で、利常と信長は初めて掠りました。

私:まつの子ではないことからくる「屈折」。キリスト教を断念する「挫折」。それらを経て、利常はあることを決意したのだ。

N:あることとは?

私:文化で加賀藩を立藩することだ。

N:信長流の政治に文化を持ち込む文化政策ではなくて、利常の文化政策は文化に政治を持ち込む文化政策ではありませんか?

私:バチカンのように文化でキャラを立てるということだな。バチカン市国は世界最小の国だが、カトリックの総本山として名を馳せている。○○大統領・首相(政治)よりもローマ法王(文化)のほうが尊敬されているのは、先ごろのローマ教皇フランシスコの来日をみても明らかだな。

N:信長の文化政策と比較してもらえたおかげで、利常の文化政策への理解が進みました。

N:信長の文化政策と比較してもらえたおかげで、利常の文化政策への理解が進みました。

私:「古九谷」には利常の文化政策ばかりではなく、信長の文化政策の魂が宿っているのだ。「古九谷」がほかの焼き物とは決定的に違うところがそこなのだ。「古九谷」の線が「武士の線」(武腰潤氏)といわれるのは信長の魂が線に宿っているからこそなのだ。

 

●古九谷を追う 加賀は信長・利休の理想郷であったのか(幻冬舎)抜粋