九谷五彩
N:おはようございます。今日は最終日で、「古九谷」ですね。
私:おはよう。そうだね、芸術的なアプローチと歴史的なアプローチ、二つのアプローチで「古九谷」に迫ろう。そして「古九谷」はゴッホやマティスのはるか200年以上も前に誕生した日本が世界に誇る芸術作品だということを知ってもらおう。
私:まず「古九谷」の命の色から語ろう。「古九谷」には「色」が5色しかないんだ。それを「九谷五彩」(青・緑・黄・紫・赤)という。
N:色数は5色なのですか?
私:そう。色を5色と決定した。ここから「古九谷」の奇跡は始まった。
N:色は原色ですか?
私:「古九谷」では色は混ぜない。原色の5色のみで色絵磁器に挑む。
N:まるで17文字の制限の中で俳句をつくる芭蕉みたいですね。
私:原色のみの「古九谷」には力強さが漲る。たとえば黄色。黄色にもいろいろな黄色があるが、「古九谷」作家は使う黄色に範囲を設けているのだ。
N:使う黄色に「範囲」を設けているとは?
私:黄色は熟したバナナの黄色。熟さないときのバナナの黄色は不採用だ。熟したバナナでも、採用する黄色は、たとえば、ちょっと熟した黄色から、完熟したときの黄色までで、水彩絵の具でいえば、オークル・ジョーヌからテール・ディタリーまでだな。
N:少しわかります。
私:青色も緑色も紫色も赤色も、こういうふうに範囲は決められている。
N:熟したバナナの黄色のような表現で、緑、青、紫、赤もお願いします。
私:緑はピーマンの緑、青は朝顔の青、紫はすみれの紫、そして赤は唐辛子の赤。
N:九谷五彩のイメージが湧いてきました。
私:そして「古九谷」には絵画にはない色の要素がある。それが「透明感」だ。「古九谷」には透明感がある。黒呉須で力強く線描きし、その上に厚く盛り上げるように絵の具を置く。だから透明感が生まれるのだ。透明感は「古九谷」の武器で、「古九谷」の力強さの源泉なんだ。
- 古九谷を追う 加賀は信長・利休の理想郷であったのか(幻冬舎)抜粋