利常の「古九谷」はWスタンダード
私:いよいよ利常だ。なんと言っても「古九谷」のスポンサーだからさ。利常の「古九谷」はWスタンダードだ。表は東インド会社の意向で、しかし、裏は利常の意向だ。
N:東インド会社の意向とは?
私:九谷は伊万里のコピー基地の話さ。しかし、利常は東インド会社の意向を逆手に取り、「古九谷」を開窯したのだ。そして自分自身の意向をついに実現させたのだ。
N:利常の意向とは?
私:地に落ちた前田や自分への評判を一発逆転する「アート基地」を企んでいた。
N:アート基地!
私:しかし意外なことが起きる。
N:意外なこと?
私:景徳鎮に復活の兆しがかすかに現れてきた。そうなれば、景徳鎮のコピー基地としての役割が、伊万里も九谷も、ともに低下し始める。
N:それで伊万里はどうしたのですか? 九谷は?
私:ヨーロッパ向けの輸出ができなくなることを怖れた伊万里は市場を国内に求め始めた。そして国内市場を席巻した。九谷は伊万里の猛攻に為す術もなかった。しかしそれはわれわれには幸いであった。
N:どう幸いしたのでしょう?
私:伊万里には中国の匂いが残るが、九谷には中国臭さはない。それは東インド会社が狙ったコピー基地としての役割を、九谷が十分に果たせなかったからではないか。
N:九谷には、幸運にも、利常路線のみが残ったというわけですね。
- 古九谷を追う 加賀は信長・利休の理想郷であったのか(幻冬舎)抜粋