古九谷を追う&古九谷を残す

週1くらいの更新になります

(8)もしゴッホが「古九谷」をみたら

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 N;この3日間は塾のときの幸せな時間を思い出しました。ありがとうございました。また夏、帰ってきます。

私;作蔵君、ちょっと「古九谷」をゴッホ絡みで語らせてくれないかい?

N;ゴッホと「古九谷」。どんな話の展開になるのでしょう。

私;もしゴッホが「古九谷」をみていたら……、とつい考えてしまう。ゴッホには「古九谷」をみて欲しかったなあ。

N:しかし、実際は、ゴッホは浮世絵に出会ってしまったのですよね。

私;ゴッホ晩年の「糸杉」は、「青手(塗埋手)古九谷」の「樹木図平鉢」(県美)と同じ匂いがする。

N:ゴッホは浮世絵の一体どこに感動したのでしょうかね?

私:ゴッホは浮世絵が持つ「絵画性」に激しい衝撃を受けた。そして色数の少なさが「色のハーモニー」を生むと気づいたんだ。さらに輪郭線の中に色が載っていることにも驚いたんだ。

N:色数の少なさは「九谷五彩」と共通しますね。では輪郭線の中に色が載っているうんぬん。その話の意味するところは?

私:ゴーギャンの画法は浮世絵に似ている(「古九谷」にも似ている)。ゴーギャンも浮世絵も(「古九谷」も)輪郭線を描く。ゴーギャンのその画法を当時セザンヌが鋭く非難していたんだ。

N:へえ。ところでゴッホは広重を模写していますね。

私:広重の浮世絵から、ゴッホは雨や波の音を聴いた。また風の強さもゴッホは感じた。

N:西洋の油絵は静の世界ですものね。

私:そしてゴッホは浮世絵の制作方式にも目を向けた。浮世絵の分業・協力体制(蔦屋の版元体制)しか為しえない高い芸術性。それをゴッホは目指した。ゴッホはコロニー(共同体)を夢想し、集団での絵画の共同制作を考えた。そしてゴーギャンと、2カ月間だけだったが、共同生活する。

N:浮世絵がゴッホに与えた影響はほんとうに大きいですね。

私:たとえば「ひまわり」7枚。たとえば「寝室」3枚。ゴッホには同じ構図の作品が複数枚ある。

N:あ、そうか! 浮世絵が何枚も刷れるように、ゴッホもそれに倣って…。

私:そうだね。浮世絵を刷る感覚と油絵を描く感覚とをゴッホは完全に一致させたかったんだ。

N:ゴッホがもし「古九谷」をみていたら……。想像が掻き立てられますね。

私:東インド会社伊万里ではなく、「古九谷」をヨーロッパに運べば……。芸術の世界にどんなインパクトがあったことだろう?

N:マティスは伊之助の「古九谷」をみていないのですか?

私:マティスは陶芸家の伊之助を知らない。「古九谷」と伊之助が出会う前にマティスは死んでしまっている。

N;印象派の巨匠たちに「古九谷」をみてもらいたかったですね。

 

●古九谷を追う 加賀は信長・利休の理想郷であったのか(幻冬舎)抜粋