古九谷を追う&古九谷を残す

週1くらいの更新になります

(11)時空に残す前田家

f:id:thesakuzo:20201203025049p:plain

私:作蔵君、ふいに作蔵君が誤解していたら……。気になり始めた。スティーブ・ジョブズイーロン・マスクだと理解しているのかな?

N:何の話でしょうか?

私: 「古九谷」を作ったのがイーロン・マスクスティーブ・ジョブズなのだよ。

N:どういうことでしょう?

私:「使う」(パトロン)という視点では、前田家(「古九谷」)も家庭の主婦(食器)も同じだが、しかし、「古九谷」はマスクやジョブズがつくっているんだよ。食器はマスクやジョブズがつくっているかい?

N:どういうことでしょう?

私:当時の磁器は「玉」だった。ダイヤモンドや金(キン)は作れないが……。

N:あ! 磁器なら作り出せると信長が気づいた、あれですね。

私:富を産み出す最先端の技術が玉作りなのだ。だから、そもそも九谷焼の作家と「古九谷」作家(マスクやジョブズ)とを同一線上に並べるからおかしなことになるんだ。NHKの番組もそこに思いが至っていないのではないか?

N:大きくでましたね。

私:マスクやジョブズが殿様の大号令のもと動いているんだ。焼き物が好きとか、絵が上手だったとか、そういったレベルの話ではないのだ。だから、トップシークレットの企業秘密・国家機密の世界で、技術は門外不出なのだ。

N:マスクやジョブズだから、「セザンヌ」(表紙の「古九谷」)が本家の200年も前に加賀にあるのですね。

私:「桜」も伊之助が絶賛した「布袋図平鉢」(久隅守景・総絵・県美)も、どちらも利治(利常3男・初代大聖寺藩藩主)の仕事だ。利治は、芸術的な才能に秀でているがゆえに、「古九谷」命のパトロンだったのだ。

N:久隅守景とはどういう人物ですか?

私:狩野探幽の最も優秀な弟子だが、破門されて金沢へ。だから京(鷹峰)の絵師と考えてもいい。

N:利治は「売る」構想で殖産興業を目指しましたよね?

私:利治の殖産興業は芸術性を纏っており、大聖寺藩として、「青手古九谷」で伊万里の名声を奪取する蒼き血の野望があったのだ。

N:私たちの殿様はやるじゃないですか!

私:利常に話を戻すと、利常には、父や兄への「鎮魂」の気持ちがあったろうね。最後の戦国武将として、不本意ながら、徳川の世を生きたんだろうなあ。下剋上の意識を捨てきれないまま、しかし、戦国の終わりを意識しながら、利常は前田三代の「陣羽織」を着た。そして「古九谷」を前田三代の「陣羽織」として時空に残そうとしたんだ。

N:行け! 利常! そう叫びたくもなりますね。

私:利常は、前田家を、華もあり実もある家として、時空を超えて残そうとしたのだ。そして利常の美意識(芸術を利休の茶事の世界の完遂)はたしかに時空を超えた。とりわけ「古九谷」の真価(光)は「桜」のように単純ではないがゆえに、少数の目利きによってかえって強烈に支持されたのだ。

 

  • 古九谷を追う 加賀は信長・利休の理想郷であったのか(幻冬舎)抜粋