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江戸期を通して九谷は伊万里に一度も勝てなかった

私：さらに伊万里と九谷を対比させれば、江戸期を通して九谷は一度も伊万里に勝てなかった。宮中は「古九谷」にある「武家」的なところを嫌い、伊万里を好んだ。いわゆる御用達窯は九谷ではなく伊万里だった。

N：え！

私：伊万里は焼き物をせっせと献上した。ヨーロッパの王家が使うものまでも献上した。伊万里は、権威の象徴の朝廷を活用するパブリシティを発明した。お公家さんの好みと伊万里の好みが一致したというか、お公家さんの好みに合うものを伊万里は生産したというか……。とにもかくにも、江戸の世では九谷はすべてにおいて伊万里に負けたのだ。

N：……。

私：誰もが伊万里の方が九谷より上だと思っていただろう。しかし「古九谷」に価値を与えた少数の目利きがいた。それが茶人だ。彼らが「古九谷」を支え、生き残らせた。そうね、強烈なファン、「古九谷」教の信者と言ってもいいかな？　人間の歴史を信じられるのは、こういうシチュエーションだ。

• 古九谷を追う 加賀は信長・利休の理想郷であったのか(幻冬舎）抜粋