古九谷を追う&古九谷を残す

週1くらいの更新になります

最後に問う 二つの「牡丹」(1)ハーモニーとヴァルール

f:id:thesakuzo:20201121100917j:plain

私:さてここからは2枚の牡丹を描いた「古九谷」きっての大名品を対比させながら話を進めよう。「亀甲牡丹蝶文大皿」(重文・「古九谷」No.1との評価もある)と「牡丹蝶文捻大皿」(東京国立博物館。以下東博)。

N:「色のハーモニー」と「色のヴァルール」。その観点から分析してもらえませんか。

私:「重文」の蝶は赤い。まるで「赤絵」職人の線だ。「色のハーモニー」においても蝶は成功していない。

N:「東博」の蝶は?

私:蝶が小さいが、「色のハーモニー」的に破綻はない。

N:「色のヴァルール」から分析すると?

私:「重文」の実物は見たことがない。画集での印象だが、重文の牡丹は色の塗り方にべっとり感がある。縁取りの亀甲紋も硬い感じがする。そもそも縁取りは色をハーモニーさせるのはむずかしい。

N:「東博」の牡丹はどうですか?

私:牡丹は風に吹かれているようだ。しかも花と葉の位置関係が正確で、ヴァルール(近くにあるものは近くに、遠くにあるものは遠くに)は成功している。

N:どちらかがコピーですか? 

私:コピーではなくオマージュだろうな。なぜならその作品は「古九谷」No.1の評価を勝ち得ているからな。

N:東博がオリジナルで、重文はオマージュでしょう? 「東博」は総絵で、「重文」は縁に亀甲紋がありますから。

私:オリジナル(東博)は総絵で写実的で、写生作品ならではの赤い砥草がある。赤い砥草が中央の牡丹を引き立てている。いっぽうオマージュ(重文)はデフォルメ観が強く出ている。

 

  • 古九谷を追う 加賀は信長・利休の理想郷であったのか(幻冬舎)抜粋